装幀のみ担当。
美しい笑顔の少女がいる。
辱められ、苦悩の皺を深めた僧侶がいる。
対照的なこれら二枚の写真を見比べながら、どちらかを装幀に使いたいと思ったが、迷った末に、タイトルの「殺劫」のインパクトから、結局、僧侶の写真を選んだ。
老いた僧侶の首筋をつかんで追い立てる人、そのさまを面白がって嘲笑する人々、そんな一枚の写真から、群衆を消し、背景の建物も消し去って、老いた僧侶だけをトリミングする。
装画はこれで決定したと考えたが、漠然とした違和感から、僧侶の頭にかぶせられた辱めの帽子のみを残し、僧侶の姿までも消してみる。残ったのは、得体の知れない、歪なかたちの「辱め」のオブジェだけになった。
ゲラを読んだとき、見てはいけない「怪物」を目撃してしまったような、あと味の悪さを覚えたものだが、装幀制作の過程でその「怪物」の正体が分かってきた。その正体とは、流行病のように人々が罹患した「他者を辱める喜び」だ。ふだんは秘められているものが、表に溢れ出し、狂奔し、暴力と化す。革命とはこの歪んだ喜びに正当性を与えるものであり、最初の一撃を促すものだ。
正体がはっきりして、今度こそ本当に、装幀はこれに決定した。