満鉄の招待で満洲と朝鮮を旅した漱石は、その体験を紀行文『満韓ところどころ』として朝日新聞に連載した。漱石の東アジア観が垣間見られるとともに、日露戦争に勝利した当時の日本人のレイシズムに漱石も伝染していたのではないかという批判を招いた問題作でもある。
本書は十人の漱石文学研究者が『満韓ところどころ』を読み直すことの現代的意義を様々なアプローチから論じたものであるが、漱石の旅程を辿って撮影した多くの写真や地図があり、息抜きふうのコラムもあって肩の凝らない読み物になっている。
デザイン面で特筆すべきは書籍タイトルに筑紫Q明朝を使ったこと。2017年にフォントワークスからリリースされたおり、筑紫アンティークよりさらに古風で、羽ばたくような躍動感のある姿に一目惚れしてしまった。癖の強い書体だけに使いどころが難しいが、日本の近代文学、漱石関係などにはストライクではないだろうか。気に入りすぎて、乱用してしまわないかと心配になるくらいだ。