赤血球に罪はないが、伝染病がテーマであるなら、この本はもう赤くなるしかないと思った。発熱と狂奔の赤。閉塞感が世界を覆い、人々の裡に、いわく言いがたい怒りやストレスが渦巻く、その激しい内燃の赤。背表紙も真っ赤に染めたいところだったが、予算の都合上、特色一色では難しく、ファーストヴィンテージのスカーレット色の紙に墨色のみで抑えた。
資料写真を数多くいただいたが、一目でテーマが分かるものは、やはり「マスク」をした人々だった。最初は安直に「風見鶏」を描いてみたが、いくらなんでも安直過ぎるので没にした。次に、メディコ・デッラ・ペステ(欧州でペストが流行ったときにペスト専門に治療したペスト医師)の姿絵を使う案が浮かんだが、日本での周知度が今ひとつであるように思われ、これもまた没にした。