横組みの学術書ではあるけども決して難解ではなく、むしろページをめくる手がとまらない。著者の案内でさすらう旅先は、九龍寨城、天津、韓辺外、戦後日本の横浜中華街、ベトナム戦争時の横浜本牧のライブハウスである。廃墟ファンを含め、きな臭い場所や隠れ家的な地下迷路を好む人にはたまらないだろう。
多くの地図と写真が収録され、九章に分かれた各論のあいまに息抜きのような九編のコラムが挟まり、読書への集中力の緩急のツボを心得た実に巧みな構成になっているのも、この学術書を親しみやすいものにしている。
本書のそんな楽しさを伝えたくて、カバーのフォントに、もじワク研究さんのマキナスを使ってみた。キリル文字のようなカクカク感とグルグル感が綯い交ぜになったインフォーマルな書体だが、不管地の迷路の壁にぶつかりながらカクカク、グルグルと歩を進めるように読んでもらえるとありがたい。