本書は2019年、香港で起きた全市民規模の非暴力抵抗運動の記録である。
日本での60年代の学生運動と同列に語る人もいるが、香港での運動は非暴力であり、何より運動に身を投じた学生たちを守ったのは親たちや企業だった。親世代との断絶を生んだ日本での学生運動とは決定的に異なる。
さらに言えば、香港での運動はじつにスタイリッシュだった。
1980年にジョン・レノンが殺害されて以降、彼の死を悼むとともに自由と平和を希求する人々がプラハにあるひとつの壁に思い思いのメッセージを書き込んだり貼り付けたりした。やがてその壁はレノンウォールと呼ばれるようになり、世界各地に同様の壁が生まれることになるのだが、香港での抵抗運動はこのレノンウォールで香港を埋め尽くすことだった。そうして生まれた壁の数は150以上、彼らの武器は付箋紙(自由へのメッセージ)である。
グラフィカルな運動スタイルであり、付箋紙で埋められた市内各地のレノンウォールの写真は驚くほどの量で、そのすべてを本書に収められなかったことが心残りである。