東日本大震災に見舞われた岩手県大槌町──。本書は漁師町の復興への足跡を11年間にわたって記録した写真集である。
野田さんの写真はカラーでありながらモノクロームに見えるときがある。無彩色のブラックが深みを与え、京町家の古壁を背景に一輪挿しを置いたように、有彩色がより鮮やかに見えてくる。野田さんのFacebookにアップされる写真を眺めながら、いつの日か作品集を図書設計する機会が訪れることを秘かに願っていた。
幸運にもその機会を得ることができたが、図書設計で最も留意したのは、可能なかぎり「デザインしないこと」だった。絵画や写真などの視覚作品を扱う場合、デザインが出しゃばりすぎるとデザイナーズブックになってしまう。書籍に収録される作品たちはデザイン素材ではないのだ。作業的にはデザイン素材を扱うのと同じであるため、無意識に勘違いしやすく、制作中、常に「デザインしないこと」を自分に言い聞かせたものだった。