ウイグルは中国政府の圧制下にあるため、日本ではもっぱら政治的な報道ばかりが目について、この国が永きにわたって蓄えてきた様々な文化はほとんど紹介されていない。
本書は古代の勅勒歌や匈奴歌から現代の獄中詩に至るまで、シルクロードの民が二〇〇〇年を遙かに超える歴史の中で口承してきた広大で勇壮なフォークロアの文学史であり、附録としてトニュクク碑文と英雄叙事詩オグズ・ナーメの貴重な訳文を収録している。
チベットにも言えることだが、中国というリヴァイアサンに呑み込まれようとしている今、圧政への糾弾ばかりでなく、ダライ・ラマ関連でもない、かの国の多様な文化を、研究や紹介というかたちで一つでも多く救い出してほしいと願う。
なお、本書では装幀のみを担当した。付き物のフォントやウイグル文様は金箔貼りのように見えるが、予算の都合でやむをえず疑似金でデザインしている。金粉インクでもなく、タクラマカン砂漠の連想もあって、カーキ(ヒンディー語で「Khaki 砂漠」の謂)を使ってみた。カーキは、紙の風合いと相俟って金色に見える不思議な色だ。